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2006年9月30日(土)14:00開演 大阪音楽大学ミレニアムホール プロデュース:日下部吉彦 座席:全席自由 |
今年も「大阪音楽大学ミレニアムホール特別講座」が年4回開催されます。今年2回目の「クラリネットの百面相 〜クラリネット ア・ラ・カルト〜」と題されたコンサートに行きました。講師は大阪音楽大学講師の小川哲生氏。事前に受講料1,000円を郵便局で振り込みました。
高校と大学の吹奏楽部でクラリネットを吹いていましたが、クラリネットの演奏会にはあまり行ったことがありませんでした。クラリネットを室内楽として聴くのも本当に久しぶりです。客の入りは7割ほど。
小川哲生氏が登場。第一部はすべてピアノとのデュオで、まずゴベール作曲/アレグレットを演奏。「Allegretto」とは「やや速く」という意味の速度用語ですが、むしろゆったりした作品。小川氏のクラリネットの音色はリードが薄いのか、薄っぺらくてキンキンした音色でした。ちょっと息漏れもしていました。
演奏が終わると、クラリネットの歴史についての解説が始まりました。受付で配布された日本の歴史とヨーロッパの作曲家の活躍時期を対比した年表を見ながら、説明を聞きました。クラリネットの前身は、紀元前2700年のエジプトの「ズマール」(他にも呼び方がある)で、バグパイプを小さくしたような形をしていたとのこと。その後、ハンガリーで「シャルモー」という楽器になった(「シャルモー」とは「オクターヴ下で演奏しなさいという音楽記号」)。この「シャルモー」を改良したのがドイツ人のデンナーだが、デンナーはクラリネットを発明したのではない。日本では、この頃に赤穂浪士の討ち入りがあった。当時は、高音がトランペットに似ていたため「クラリーノ」と呼ばれていたが、1770年(ベートーヴェンが生まれた年)になって「クラリネット」と呼ばれるようになったとのこと。昔のクラリネットは、リコーダーのようにキイが何もついていなかった。また、1本のクラリネットでは1つの調しか演奏できなかったため、転調の際に楽器を持ち替えていたとのこと。また、ウェーバーの時代から、クラリネットはリードを下にして吹くことになったとのこと(それ以前は上向きにして吹いていた)。キー・システムの話に移り、今では早い時期に完成した「フランス式」が主流。ビュッフェとクローゼーが共同で1839年に作った「ベーム式クラリネット」が一番有名。この「フランス式」に対抗して作られたのが「ドイツ式」で、「エーラー式」が有名。
つづいて、エリザベート作曲/ロマンスを演奏。作曲したエリザベートは、マイニンゲンのオーケストラを抱える貴族の王女。ブラームスと親交があったミュールフェルトが初演したとのこと。後に作曲家のレーガーがこの作品を聴いて、エリザベートと文通したとのこと。作品は、静→動→静の構成でした。
つづいて、シューマン作曲/「幻想小曲集」より第1楽章。この作品はA管で演奏します。シューマンにクラリネットの作品があったとは知りませんでした。最初にこの作品の冒頭をA管とB♭管で聴きくらべ。A管のほうがまろやかでうまく聴こえました。吹き慣れていることもあるかもしれません。ちなみに、ブラームス作曲の交響曲第1番の第2楽章にA管クラリネットソロがあるが、クラリネットはピッチに敏感なのでB♭に移調して演奏することがあるとのこと。
ここで、プロデュースを務める日下部吉彦氏が登場。小川氏とのトークが始まりました。日下部氏が「クラリネットは二枚目よりも三枚目の音が多い」と話し、小川氏に「あれやってください」とリクエスト。小川氏が歩きながら、ちんどん屋のマネをしました。ちんどん屋になぜクラリネットが入っているかという話題になり、クラリネットの音がよく通るからではないかということで話がまとまりましたが、最近は騒音のなかでも聴こえるようにサックスが入っていることもあるとのことです。
つづいて、クラリネットの「暗い音」ということで、チャイコフスキー作曲の交響曲第5番第1楽章冒頭のクラリネットソロを演奏。小川氏は大阪フィルで活躍されていたそうですが、演奏するときは「こわい」と話していました。
つづいて、「おいしいソロ」ということで、プッチーニ作曲の歌劇「トスカ」から「星は光りぬ」。日下部氏が「テノールが出て来ないほうがいいんじゃないか」と言うほど、表情豊かな演奏でした。
つづいて、サン=サーンス作曲の組曲「動物の謝肉祭」から「かっこう」。この作品は、舞台裏で演奏します。
続いてはベルリオーズ作曲の幻想交響曲。第5楽章の魔女の大宴会のシーンでクラリネットソロを演奏。第1楽章でヴァイオリンが奏でたメロディーの変形です。
さらに、ベートーヴェン作曲の交響曲第5番「運命」第1楽章冒頭。弦楽器が演奏する有名な「運命の動機」にクラリネットがユニゾンで入っていることは、「ベートーヴェン七不思議」のひとつらしいですが、理由はトランペットでは音量が大きすぎたのではないかと推測していました。当時のクラリネットは金管楽器に入っていたそうで、小さな音が出なかったそうです。
最後は、ガーシュウィン作曲の「ラプソディー・イン・ブルー」の冒頭ソロ。ガーシュウィンはクロマティック(半音階)で書いたそうですが、ホワイトマンのクラリネット奏者がグリッサンドで演奏したところ、それが採用されたとのこと。小川氏によると、このソロの成功率は、イチローといい勝負(約4割)とのこと。
休憩後の第二部は、弦楽四重奏とクラリネットでのクインテット。左から、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ヴィオラの順に着席。まず、モーツァルト作曲/クラリネット五重奏曲(未完成)を演奏。よく知られている K.581ではなく、その後に発見された未完成の作品とのこと。B♭管のために書かれた作品です。わずか93小節でぷっつりと終わっています。数分で終わりました。初めて聴きましたが、クラリネットが弦によく溶け込みます。もっと続きが聴きたいですね。小川氏のクラリネットですが、第一部と違って座っての演奏になると、安定感が出てきました。
最後は、ウェーバー作曲/クラリネット五重奏曲。クラリネット奏者としては見せ場が多いので、挑戦したくなる作品といえるでしょう。メロディーがあまり親しみやすくないのが残念です。小川氏のクラリネットは、伸びのある音色を聴かせました。
拍手に応えてアンコール。モーツァルト作曲/クラリネット五重奏曲K.581の第1楽章を演奏しました。
吹奏楽ではクラリネットは大勢で演奏するので、ピアノとの二重奏はあまり興味がありませんでしたが、弦楽器とのアンサンブルは意外に楽しめました。今度は私が大好きなブラームスのクラリネット五重奏曲を生で聴いてみたいです。
(2006.10.3記)