ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2005「ベートーヴェンと仲間たち」№114


   
2005年4月29日(祝・金)16:45開演
東京国際フォーラムホールA(ワルトシュタイン)

飯守泰次郎指揮/ポワトゥ・シャラント管弦楽団
庄司紗矢香(ヴァイオリン)

ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲(オリジナル・ヴァージョン)

座席:S席 2階 2列47番


4月29日から5月1日までの3日間、東京国際フォーラムでラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2005が開催されました。3日間でベートーヴェンの作品を中心に朝から晩まで約160公演を行なうという前代未聞の企画です。1公演あたりの演奏時間は45分程度ですが、入場料も平均1,500円というお手頃価格。「公式ガイドブック」がぴあから発売されるなど、かなりの熱の入れようでした。
この音楽祭の創設者は、「ラ・フォル・ジュルネ」アーティスティック・ディレクターを務めるルネ・マルタン。「ラ・フォル・ジュルネ」は、1995年にフランスのナントで開催され、その後リスボン(ポルトガル)、ビルバオ(スペイン)でも開催され、今年東京にやってきました。今回のテーマは「ベートーヴェンと仲間たち」。ベートーヴェンの作品を中心に演奏しますが、毎年いろいろな作曲家を取り上げています。

1日目の午後に東京国際フォーラムに着きましたが、下の写真を見ても分かるように、特設ボックスオフィス(チケットブース)には当日券を求める大行列ができていました。チケット完売の公演が続出していました。日本にクラシック音楽が、ベートーヴェンがこれだけ浸透していたのかと驚きました。もちろんクラシックを聴きに来た人もいたと思いますが、すごい人なので自分も乗り遅れまいという一種の群集心理が働いたと推測されます。
数ある公演の中からこの演奏会を選んだ理由は、庄司紗矢香が演奏することと、5,000人収容の国内最大級のホールである東京国際フォーラムのホールAで一度演奏を聴いてみたかったからです。この音楽祭では、東京国際フォーラムの各ホールにベートーヴェンに関係する人名がつけられています。ホールAは「ワルトシュタイン」。2階席でしたが、本当に大きいホールでした。

この演奏会のチケットは前売券、当日券ともに完売。クラシックの演奏会で5,000人のホールが埋まるなんてめったにないでしょう。
プログラムは、ベートーヴェン作曲/ヴァイオリン協奏曲の1曲。「オリジナル・ヴァージョン」で演奏するという告知が事前にありました。
ポワトゥ・シャラント管弦楽団の団員が入場。ポワトゥ・シャラント管弦楽団は、フランスのオーケストラで、団員は50人程度と小規模。今回が初来日のようです。ステージは広いのに、並べられた奏者のイスの数が少なくてビックリしました。客席からの拍手にビ圧倒されているようにも見えました。庄司紗矢香が水色のドレスで登場。
まず、ホールの音響ですが、ダイレクトに客席に音が届いていない印象を受けました。ホールが大きすぎて、音がこもり気味になります。音型がぼやけがちで、モサモサした響きになるのが残念。臨場感や躍動感が失われてしまい、演奏の特徴がよく分かりませんでした。こんな大きなホールで奏者が50人程度というのはそもそも不似合いです。クラシック音楽の演奏に適したホールとは言えないでしょう。
庄司紗矢香は、カデンツァで丁寧かつ力強い演奏を聴かせました。ただし、ホールが響きすぎるので、細かな表情が聴きとれませんでした。
ポワトゥ・シャラント管弦楽団は、明るく柔らかい音色を聴かせました。ただ、フランスのオーケストラのせいなのか、アクセントを強く演奏せず、個々の音符のアーティキュレーションよりも、フレージングの流れを重視した演奏でした。ベートーヴェンの演奏にしては大味で、厳格さに欠けます。これではベートーヴェンの魅力が半減してしまったようなもので、もっとハキハキとした演奏でないときついです。特にこういう大きいホールでは、アクセント気味に演奏してちょうどいいと思います。また、弦楽器奏者が少なくバランスが悪かったです。
飯守泰次郎は全身を使って一生懸命オーケストラをリードしていました。
演奏終了後は、盛大な拍手が送られました。カーテンコールが終わると、すぐに客席の入れ替えが行なわれました。このホールAで1日に6公演が行なわれるので、聴衆の入退場がかなり大変です。
総じて、演奏者が実力を出し切れていないように感じました。上述したホールの音響も要因のひとつですが、演奏自体もいまひとつ不完全燃焼という印象を受けました。それは「ラ・フォル・ジュルネ」の特色であるハード・スケジュールにあるかもしれません。指揮者もソリストもオーケストラも1日に複数回の公演に登場するので、頭の切り替えや意思疎通などが難しいのかもしれません。散漫な印象を与えてしまったのが残念。
また、第3楽章の演奏中に子供が大声で泣き出すというハプニングもありました。「ラ・フォル・ジュルネ」では、2歳以下は入場できませんが、3歳以上の未就学児は入場できます。家族がそろって楽しめるのがこの音楽祭の魅力ですが、こういうマイナス面もあるので難しいです。

なお、この音楽祭では「オーケストラの無料公演」が開催されました。場所は、東京国際フォーラム展示ホール1(フィデリオ)。有料コンサートのチケットの半券があれば出入り自由です。私が入ったときは、益田公彦指揮/ベートーヴェンティアーデが演奏していましたが、ホルンが音を外しまくるなどお粗末な演奏。もっともステージの周囲にはCDが販売されているなど、かなりうるさかったので、ほとんどBGM感覚で楽しめればよいということなのでしょう。また、A展示室(ベートーヴェン市場)のオリジナルグッズ販売が大盛況。売り切れの商品が出ていました。せっかくなのでTシャツ2枚を購入。

さらに、19:00から映画「不滅の恋/ベートーヴェン」(1994年/アメリカ)をホールD1(ネーフェ)で観ました。ベートーヴェンの遺書をもとに、「ベートーヴェンが愛した女性」が誰なのかを探るミステリーのようなストーリーでした。ベートーヴェンの生涯を振り返りながらストーリーが進行するので、ベートーヴェンの生涯を知るにはいい映画でした。映画で使用されているベートーヴェンの音楽の指揮をショルティが担当していて、パワフルな演奏を聴かせてくれました。ただし、2時間の上映時間は少し長かったです。

21時頃に会場を後にしましたが、チケットを買い求める行列は夜まで絶えることがありませんでした。報道によると、3日間にのべ30万人が訪れたようです。初めての試みとしては大成功だったと言えるでしょう。早くも来年のゴールデンウィークはモーツァルトをテーマに開催することが決定したようです。2006年はモーツァルト没後250年のメモリアルイヤーだけに今年以上の盛り上がりが期待できそうです。クラシック音楽の裾野を広げる取り組みとして評価したいです。
ただ、もう少し落ち着いた雰囲気でクラシック音楽を聴きたいです。奏者にとってもこの開催形態がいいのか議論があってもいいかもしれません。

(2005.5.11記)


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公演パンフレット



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