星夜のジルヴェスター・ガラ・コンサート


   
      
2004年12月31日(金)22:00開演
神戸国際会館こくさいホール

佐渡裕指揮/阪神・淡路大震災10周年メモリアル・オーケストラ(大阪センチュリー交響楽団及び兵庫県立芸術文化センター付属交響楽団アソシエイトプレイヤーによる)
兵庫県立明石南高等学校吹奏楽部員、大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部員、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団
D・D・ジャクソン(ピアノ)、原朋直(トランペット)、深川和美(ソプラノ)、土居秀行(パーカッション)、並河寿美(ソプラノ)、小貫岩夫(テノール)
特別ゲスト:ラウル・ゲーリンガー指揮/ウィーン少年合唱団
トークゲスト:古市忠夫(プロゴルファー)
司会:平松邦夫、佐藤江梨子

座席:B席 2階 7列31番


2004年の聴き納めです。前日の佐渡裕 21世紀の第九に続いて、佐渡裕指揮によるジルヴェスター・ガラ・コンサートです。チケットは全席完売でした。なお、サンテレビによるテレビ生中継がありました。
佐渡裕は、2005年10月に西宮北口にオープンする兵庫県立芸術文化センター芸術監督として指揮しました。また、この演奏会のサブタイトルが「阪神・淡路大震災10周年記念「1.17は忘れない」」と題されているように、震災後の10年の道のりを振り返り、希望を持って新しい年を迎えるという趣向の演奏会でした。

神戸国際会館こくさいホールは、三ノ宮駅から歩いてすぐの場所にありました。震災復興のシンボルとしてオープンしたようで、2000人収容のホールですが、あまりクラシックの演奏会は開催されていないようです。ホールの内装は、びわ湖ホール大ホールとよく似ていました。メインホワイエにスターバックス・コーヒーが入っていたので驚きました。

出演者が多く、かなり入れ替わりの激しい演奏会でした。こくさいホールは、座席のせいなのかあまりいい音響ではありませんでした。ただ、ステージ後部にスクリーンがあって、演奏者の表情が大きく映し出されるという工夫がされていました。字幕スーパーも表示されて高性能。聴覚よりも視覚的に訴えてくる演奏会でした。

オーケストラがチューニングをして開演。直後にホール内の照明がすべて落とされ、スクリーンに阪神・淡路大震災の映像が映し出されました。そして、佐渡裕の指揮で、J.S.バッハ作曲/G線上のアリアを演奏。演奏中も震災直後と現在の映像が比較して映し出されました。その後、司会者と佐渡のトーク。佐渡裕の声を聞いたのは初めてでしたが、意外に高い声でした。G線上のアリアは、震災の犠牲者へのレクイエムとして演奏したとのこと。佐渡裕は震災当日は京都大学交響楽団とマーラー交響曲第9番を演奏したそうです。また、2年前から神戸市民らしいです。
続いて、ガーシュウィン作曲/ラプソディー・イン・ブルーを演奏。ピアノ独奏は、ジャズピアニストのD・D・ジャクソン。本場のジャズフィーリングを感じさせる演奏で、リズムの取り方が普段あまり耳にしない独特の感覚でした。強奏ではミスタッチをものともせずバリバリ弾いていました。足を踏み鳴らすなどジャクソンがリードした演奏で、佐渡裕の指揮以上に目立っていました。
続いては、D・D・ジャクソン作曲/Hopes and Dreamsを、作曲者によるピアノと原朋直のトランペットで演奏。この作品は、9.11事件(アメリカ同時多発テロ)の犠牲者を追悼するために書かれたようです。最初は情熱的なバラード風ですが、最後は軽快な行進曲風の盛り上がりを見せるおもしろい作品でした。D・D・ジャクソンのピアノはまさに演奏に没頭していて、アドリヴを効かせたり、ときにはイスから立ち上がって演奏していました。
休憩前最後の曲目は、レスピーギ作曲/交響詩「ローマの松」。バンダは、2階席前方の右に兵庫県立明石南高等学校吹奏楽部員、左に大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部員を配置。オーケストラの演奏は冴えませんでしたが、この両校吹奏楽部員の演奏はほんとにうまい。音に張りがある。オーケストラ以上の演奏でした。第3曲「ジャニコロの松」のナイチンゲール笛も彼らに演奏させていました。

休憩後は、特別ゲストとして招かれたウィーン少年合唱団約20名による合唱。本当に背が小さくて、まだ子どもといった容姿です。彼らは、震災直後にウィーンでチャリティー公演をしたり、神戸の小学校を慰問に訪れたとのことです。ラウル・ゲーリンガーのピアノと指揮で、赤とんぼふるさとさくらを合唱。日本語で歌いましたが、ドイツ語なまりの日本語で、g、s、tなどの子音が強く発音されるので、少し違和感がありました。続いて、J.シュトラウス作曲/アンネン・ポルカ浮気心美しく青きドナウを合唱。「天使の歌声」と形容される彼らの合唱を初めて聴きましたが、高音で音程の狂いがあるなど期待したほどの内容ではありませんでした。こんな夜中に本番を行なうのは多くないのでしょう、ベストコンディションでないように思いました。また、この規模の合唱なら、もう少し小さなホールで聴いてみたいです。
スクリーンの右下に現在時刻が表示されました。司会者から新年の1分前に終わることを条件に、D・D・ジャクソンと原朋直が蛍の光を演奏。シンフォニックな演奏でいいアレンジでした。D・D・ジャクソンはピアノを手のひらで押して、近接する複数音を同時に鳴らしていました。無駄のない完成度の高い演奏でした。
そして全員で新年へのカウントダウン。「あけましておめでとうございます」のコールの後、クラッカーが鳴らされ、佐渡の指揮でエルガー作曲/行進曲「威風堂々」第1番を演奏。合唱はザ・カレッジ・オペラハウス合唱団。佐渡は上着を黒から白に着替えていました。白い服を着た佐渡裕を目にする機会はなかなかないかもしれません。第2主題では、佐渡は客席に向かって指揮していました。
続いて、ヨハン・シュトラウスのポルカから雷鳴と稲妻狩にてを演奏。雷鳴と稲妻は、文字通り打楽器で雷鳴と稲妻を表現した作品。ポルカというよりは行進曲のノリでした。狩にては、ピストルを派手に鳴らしていました。
続いては、プログラムには記載がないが、佐渡がどうしてもお聴かせしたい曲ということで、福澤もろ作曲/はすクリアを演奏。「はす」とは植物の蓮、「クリア」は浄化するという意味らしいです。深川和美のソプラノ、土居秀行のパーカッション、D・D・ジャクソンのピアノ、原朋直のトランペットで演奏されました。どこか日本人離れした心に残るメロディーでした。パーカッションの土居秀行の演奏が表情豊かですばらしい。
次は、トークゲストとしてプロゴルファーの古市忠夫の独演。佐渡裕の「ゴルフの師匠、心の師匠」として紹介しました。地元商店街などローカルネタが中心でしたが、彼の著書が映画化されるようです。
最後は、バーンスタイン作曲/僕らの庭を育てよう〜ミュージカル「キャンディード」よりを、並河寿美のソプラノ、小貫岩夫のテノール、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団の合唱で演奏。佐渡曰く「これからもテーマにしたい曲」とのことでした。

今回の演奏会の企画は、佐渡裕がかなり前面に出て携わったような印象を受けました。彼の意図は、2005年10月にオープンする兵庫県立芸術文化センターのPRと、来年以降は同様のジルヴェスターコンサートをホールを移して、毎年行ないたいということだろうと思います。佐渡裕はすでに兵庫県立芸術文化センター付属交響楽団「ひょうごオーケストラ(仮称)」の団員オーディションを開始するなど精力的な活動を行なっています。今回は初めての試みでしたが、来年以降は年々バージョンアップしていくつもりなのでしょう。
今回の演奏に関しては、やはりオーケストラの演奏がいまひとつ精細に欠いたことが惜しまれます。年末の連日の演奏会でお疲れなのかへばり気味で、音が寝ていて客席に飛んできませんでした。また、独奏者や独唱者が演奏時にマイクを使用していたのは残念。マイクを通した音ではなく、ホールに響く音を聴きたいです。
演奏を補完する役割を担ったのが、上述したステージ後方のスクリーンでした。見せるクラシックコンサートがここまで進歩したのかと驚きました。佐渡裕のような豪快な指揮を見せる指揮者なら見ごたえがありますし、表情が間近に見られてとても効果的です。ただ、佐渡裕にとっては、自分の指揮姿を見ながら指揮することになるので、少しやりにくい面もあったのではないかと思います。
余談ですが、佐藤江梨子の司会は楽しめました。彼女は14歳のとき震災に遭って、避難所で聞いたラジオに励まされてタレントになることを決意したらしいですが、トークのぶっ飛び方がすごかった。デヴィ夫人や深田恭子が登場するなど脱線しまくり。彼女の話は、単体で聞きたいですね。

(2005.1.4記)




佐渡裕 21世紀の第九 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団来日公演