ハンブルク北ドイツ放送交響楽団来日公演


     
 
2003年5月18日(日)17:00開演
京都コンサートホール大ホール

クリストフ・エッシェンバッハ指揮/ハンブルク北ドイツ放送交響楽団

〔プログラムB〕
シューベルト/交響曲第7(8)番「未完成」
マーラー/交響曲第5番

座席:A席 1階29列26番


ハンブルク北ドイツ放送交響楽団の通算6度目の来日公演です。前回はギュンター・ヴァント最後の来日公演となった2000年11月ですから、2年半ぶりの来日になります。
今回のツアーの指揮は同響首席指揮者の地位にあるクリストフ・エッシェンバッハです。2003年末で同ポストをクリストフ・フォン・ドホナーニに譲ってフィラデルフィアフィア管弦楽団に移ります。

ロビーでプログラムを1000円で購入し、ホール内へ。聴衆の入りは8割ほどでした。
オケ団員に続いて、ゆっくりとした足取りでエッシェンバッハが登場。背が低くて小柄な指揮者でした。

プログラム1曲目は、シューベルト作曲「未完成」
第1楽章冒頭の弦のピッツィカートからして、すでに表情豊かで音楽が息づいていて、さすがに一流のオーケストラだなと感じました。特にヴィオラ以下の弦楽器が重厚で表情の付け方が素晴らしい。トレモロでは引き締まった音色が引き出されており、まさにシューベルトを演奏するのに理想的な音色でした。ただし、木管楽器は音程やバランスが不安定で残念。金管楽器も表情が薄く軽い印象。シューベルトが意図したとされる地獄的な雰囲気を感じさせるまでには至りませんでした。エッシェンバッハは大振りするタイプではなく、オケを冷静にコントロールしていました。
第2楽章も、冒頭のヴァイオリンがまさに天国的な美しさ。すばらしい! ただし、クラリネットソロはリードが悪いのかはっきりしない演奏だったのが残念です。

プログラム2曲目は、マーラー作曲「交響曲第5番」。オケの団員が増えて大編成となりました。全体的に、硬く引き締まったマーラーでしたが、いくぶん安全運転すぎるところがあり、爆発的な演奏を期待した点では物足りなさを感じさせるところがありました。
第1楽章冒頭のトランペットソロがなんといきなりトチって、三連符+二分音符なのに、音が二つしか聞こえませんでした。やっぱりプロでもソロから始まる作品は緊張するということでしょう。弦楽器の一体感ある演奏がすばらしく、ソルフェージュ能力の高さがうかがえました。金管楽器の音の抜けもよく、ホルンのゲシュトプ奏法なども強烈に響かせていました。
第2楽章は激しい楽想ですが控えめな演奏で、強奏ではもっと荒々しい演奏を望みたいです。特に金管楽器が体重がのっていないような演奏なのが残念。
第3楽章も技術的にはすばらしく美しい音色を聴かせました。特にホルンソロは音色、音量ともに最高。しかし、エッシェンバッハの個性を感じさせる演奏ではなかったように思います。
第4楽章は、弦楽器のみの楽章ですが、弦楽器のみでこんなサウンドが生まれるとは思いませんでした。特にヴィオラの表現力がすばらしく立体感を感じさせました。深みと奥行きのあるアンサンブルが見事でした。
第5楽章では、大胆にリタルダンドが見られました。

鳴りやまぬ拍手に応えて、アンコール1曲目は、ドヴォルザーク作曲「スラヴ舞曲第8番」。弦楽器が重厚なせいかドヴォルザークよりもブラームスを感じさせる演奏でした。和音のバランスを重視しながらも熱演を披露しました。
アンコール2曲目は、スメタナ作曲「道化師の踊り」。弦楽器が早いパッセージを完璧に演奏しました。交響曲とは違って、こういう小品の方がリラックスして演奏できており、このオーケストラの実力を披露するのにふさわしいと思いました。

クリストフ・エッシェンバッハは、ピアニスト出身だけあって非常に繊細な音楽を披露しました。熱演系ではなく、本番も練習通り演奏するといったスタンスで、比較的冷静なタクトコントロールでした。交通整理がよく行き届いており、クリアな音響を引き出すことを得意にしているようです。視覚的にも大振りしないなど指揮法で魅せるタイプではないだけに、そういう点では演奏会よりも録音向きなのかも知れません。ホールのせいか、演奏が直線的でなくやさしく包まれている感じで、強奏ではいまひとつ物足りなさを感じました。今後はさらにエッシェンバッハの個性を刻印できる演奏に期待したいところです。

ハンブルク北ドイツ交響楽団は、さすがドイツのオーケストラだけあって、弦楽器の水準が日本とは比べものにならないほど高く、感銘を受けました。特にヴィオラがすばらしい。エッシェンバッハ時代に演奏レパートリーが格段に広がったこともあり、次回の来日公演も大いに期待しましょう。


(2003.6.29記)


京都コンサートホール



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