◆作品紹介
フランス生まれの現代作曲家ヴァレーズの代表作。1929年から1931年にかけてパリで作曲された。91小節、約6分半の小品。
13人の打楽器奏者が、37種類もの打楽器を演奏する。音程が異なる2台のサイレンやTambour a corde(ライオン・ロアー)など珍しい楽器も多く使われる。スコアでは奏者は1から13までの番号で記され、楽器配置も指定されている。
「イオニザシオン」とは電離、すなわち原子核が電子に分解されてイオン化すること。個々の楽器や音符は電子であり、宇宙の中の星であるとする。旋律や和音とは関わりなく、リズムと強弱と音色によって構成されている。そのため、西洋音楽史上初のパーカッション・アンサンブル曲とされている。全体は4つの部分に分けることができる。
初演はニコラス・スロニムスキーの指揮で、1933年3月6日にニューヨークのカーネギーホールで行なわれた。
◆CD紹介
演奏団体 | 録音年 | レーベル・CD番号 | 評価 |
プライス指揮/アメリカン・パーカッション・ソサイエティ | 1957 | チェリーレッドレコーズ(輸) ACMEM172CD | C |
ブーレーズ指揮/シカゴ交響楽団 | 1995 | グラモフォン UCCG1051 | A |
リンドン=ギー指揮/ポーランド国立放送交響楽団 | 2005 | ナクソス 8.557882 | B |
グルービンガー(sen.)指揮/ザ・パーカッシヴ・プラネット・アンサンブル、グルービンガー(perc) | 2009 | コルレーニョ(輸) WWE20295 | B |
プライス指揮/アメリカン・パーカッション・ソサイエティ 【評価C】
速いテンポが衝撃的。早送りで再生されているのかと思うほどである。4分20秒で爆走する。勢いのよさではピカイチ。
マイクとの距離が近いため、Tambour militaire(マーチングドラム)やtalore(底の浅い小太鼓)のドカドカという音が銃弾のように聴こえる。速すぎて細部は何がなんだか訳が分からない。秩序ある楽譜にそって演奏しているようには思えない。あまり聴こえない楽器もあり、楽器の種類や音色の違いは楽しめない。2台のサイレンが空襲警報のようによく響く。65小節のフェルマータは長くとる。75小節に速いテンポで突っ込み、徐々にリタルダンドして終わる。
ブーレーズ指揮/シカゴ交響楽団 【評価A】
ブーレーズ3回目の録音。遅めのテンポで、縦線を確実に決める。冷静な態度で落ち着いて淡々と演奏する。安定感があり、決してあわてない。楽器の音色は硬く乾いていて引き締まっている。重心があり硬い響きである。必要以上にうるさくならず、よく整理されている。各楽器の音色の違いも楽しめる。サイレンはあまり鳴らさない。
7小節からTam-tamがffで炸裂する。ジュワーンという余韻が響き渡る。38小節からConcerro(カウベル)の金属音のアクセントがすごい。44小節からTambour a corde(ライオン・ロアー)の低音が不気味に響く。51小節からのEnclumes(鉄砧)はカンカンと音程が高い。66小節、68小節、74小節のsffの音圧も強烈。75小節からのTam-tamの響きも鮮度がある。
リンドン=ギー指揮/ポーランド国立放送交響楽団 【評価B】
速いテンポで、勢いよく演奏される。縦線が揃わずバタバタする部分もあるが、勢いで乗り切る。4番奏者のTambour militaire(マーチングドラム)は響きすぎるので、もう少し余韻を絞って欲しい。Sirene claire(高音サイレン)の音程が高く「ヒュー」と鳴る。
9小節からはpのTambour militaire(マーチングドラム)よりも、ppの2Bongo(ボンゴ)のほうが大きく聴こえる。44小節からは3blocs chinois(チャイニーズブロック)が軽快に叩かれる。51小節からのEnclumes(鉄砧)はf指示だが軽く叩かれる。
グルービンガー(sen.)指揮/ザ・パーカッシヴ・プラネット・アンサンブル、グルービンガー(perc) 【評価B】
強奏でも大きな音量を出さず、力強さや白熱した盛り上がりはない。むしろ弱奏の繊細な表現に注意を払っている。澄んだ音響で、優しい表現である。遅いテンポで、勢いに流されずに淡々と演奏する。Tambour militaire(マーチングドラム)が控えめなので、他の楽器がよく聴こえる(38小節からのClavesとCastagnttes、52小節からおよび65小節のTriangle)。85小節のSirene graveのffで頂点を築く。
複雑な作品を分かりやすく親しみやすく演奏していて、この作品を練習するうえで模範演奏として参考になるだろう。ヴァレーズの前衛性は影を潜めているが、ヴァレーズ入門としても推薦できる。ライヴ録音とは思えないほど鮮明な録音で、音場が広く感じられる。
2010.3.16 記
2010.6.12 更新
2013.1.8 更新