映画批評
東京原発

2002年に製作された映画だが、公開は2004年になった。作品があまりにも強いメッセージを発しすぎていて、上映する映画館が見つからなかったことが原因のようである。
作品は二つの物語からなる。前半は、東京都に原子力発電所を誘致しようとする都知事の爆弾提案、後半では、プルトニウムを載せたトラックのハイジャックが都内で起こる。最近の国内情勢においては、実際に起こりうる状況設定であり、極めて現実色の強い作品である。しかし、この二つの事件の描き方が、まるで別の作品、別の監督が撮ったようなギャップ(静と動)がある。逆に言えば、うまく描き分けられていると評価できるのかもしれないが、ストーリー的にやや取って付けたような印象を与える。
前半の局長会議では、まず都知事から原発誘致の意義や必要性が述べられる。日本国内で多くの原発が稼動しているのだから、東京に建設しても問題ないのではないかと思わせてしまう。つづいて、副知事が招いた大学教授が、原発の危険性についてさまざまな資料を用いながら理論的に説明が行われる。まるで報道番組を見ているかのような錯覚に襲われるほど詳細で、もっぱら原発の危険性を強調しており、「ウソをついている」「国民はだまされている」などと政府の政策に対する批判が噴出する。日本のエネルギー政策をわれわれに考えさせる意図があるのだろうが、さすがに話が長い。また、いささか一方的である。
後半のトラックハイジャックはスリル満点である。もっと時間を多く取って緊迫感を表現してもよいと思ったが、台場から新宿までというハイジャックルートなら、爆発まで60分というタイマー設定も止むを得ない。また、トラックを乗っ取った少年の要求や目的が語られていない。単なる愉快犯とは思えない計画的な犯行なのだが、少年が原発についてどういう考えを持っていたのか知りたい気持ちになった。ラストシーンは見事である。「この世に絶対などということはない」という都知事の台詞が印象に残った。
作品の随所でコメディタッチの批判的な視点が見て取れる。作品全体が重たい内容だけに、ところどころで笑い飛ばす必要があったのだろうが、その分、作品が伝えようとしている焦点がいくぶんぼやけてしまった感がある。全編に渡って、重苦しい雰囲気で統一してもよかったようにも感じる。出演者はいずれもハマリ役で、台詞が多いこの作品を飽きさせずに見せてくれる。
このレポートを書いて気がついたことだが、この作品を見た日は、広島に原子爆弾が落とされた日であった。そういう感慨を持って、この映画を観た観客はどれだけいただろうか。また、3日後には美浜原発で死者を出す事故が起こってしまった。近い将来、この映画と同じような事件が起こるかもしれない。原子力に対する多くの警告を発している作品であり、多くの人に観てもらいたい。「無知は犯罪である」という言葉を思い出した。

以上

2004.8.12記