プロコフィエフ交響曲入門〜琵琶湖疏水を愛したある作曲家の肖像〜


 

2026年4月12日(日)14:00開演
琵琶湖疏水記念館AVホール

お話:小味渕彦之(音楽評論家)、沖澤のどか(京都市交響楽団第14代常任指揮者)

座席:全席自由


 
京都市交響楽団は2026年度で創立70周年を迎えました。京響70周年記念事業として「プロコフィエフの陣~交響曲全曲演奏会」が開催されます。プロコフィエフの交響曲全7曲を3回に分けて演奏します。「壱」(5月3日(日) 、交響曲第1番、第2番、第3番)、「弐」(7月18日(土)、交響曲第4番(初版/1930年)、第5番)、「参」(11月28日(土)、交響曲第6番、第7番)の3回で、「壱」を聴きに行く予定です。
 
この全曲演奏会をより楽しむためのプレイベントとして、「プロコフィエフ交響曲入門〜琵琶湖疏水を愛したある作曲家の肖像〜」が開催されました。3月12日に京都市交響楽団のホームページ等で広報されました。音楽評論家の小味渕彦之(こみぶちひろゆき)と沖澤のどかがプロコフィエフのそれぞれの交響曲のキャラクターやプロコフィエフの人生について解説するという企画でした。プロコフィエフが記した京都滞在中の日記(1918年6月14日)に「素晴らしい疏水(琵琶湖疏水)が実に心地よい風景のなかにある。これこそ本当の日本だ!」 という一文が残っていて、プロコフィエフと京都を関連づけて、しかも琵琶湖疏水の関連施設で開催するというすごく視野が広い企画です。
 
定員は50名で、料金は500円(資料代)でした。所定のGoogleフォームから申し込み。京響友の会会員限定の企画はなく。一般の方でも申し込み可能でしたが、3月29日に当選メールが届きました。
 
沖澤のどかは、2023年度に京都市交響楽団第14代常任指揮者に就任して、2026年度から2期目(4年目)のシーズンに入りました。3月初めから5月初めまで、約2ヶ月間も日本に滞在します。これまでになく長いと言えるでしょう。3月の初めはNHK交響楽団を5公演指揮しました(「N響大河ドラマ&名曲コンサート<特別編>」(2026.3.5 NHKホール)「N響大河ドラマ&名曲コンサート」(2026.3.6 大宮ソニックシティ大ホール、2026.3.7 所沢市民文化センターミューズ アークホール、2026.3.8 キッセイ文化ホール大ホール)、「第13回NHK交響楽団いわき定期演奏会」(2026.3.15 いわき芸術文化交流館アリオスアルパイン大ホール)。続いて、京都市交響楽団で、「第709回定期演奏会」(2026.3.20 京都コンサートホール大ホール)と「オーケストラ福山定期 Vol.12 京都市交響楽団」(2026.3.22 ふくやま芸術文化ホールリーデンローズ大ホール)で、モーツァルト/歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」(演奏会形式)を指揮。続いて「オーケストラ・ディスカバリー2025 「発見!メモリアルイヤーの作曲家」第4回「歌と楽器と音楽と」」(2026.3.29 ロームシアター京都 メインホール)を指揮。4月に入り「熊本地震復興祈念 ヴェルディ レクイエム公演」(2026.4.6 熊本城ホールメインホール)を指揮。そして京都に戻り、「第710回定期演奏会」(2026.4.10&11 京都コンサートホール大ホール)を指揮しました。今回のイベントは「第710回定期演奏会」の翌日で、「京都市交響楽団70周年&サントリーホール40周年記念 沖澤のどか指揮 京都市交響楽団」(2026.4.14 サントリーホール大ホール)の2日前というわずかなOFFの日に開催されました。貴重な休日にありがとうございます。
 
琵琶湖疏水記念館は、京都市営地下鉄東西線の蹴上駅から徒歩7分で、ロームシアター京都の近くにあります。桜の見頃のシーズンは先週頃だったので、葉桜になってしまいましたが、鴨東運河を運航する岡崎さくら回廊十石舟めぐり(約25分、2000円)はまだ運行されていました。
1989年に開館して、地下1階、地上2階の建物で、京都市上下水道局が管理運営しています。入館は無料です。2024年の春に蹴上浄水場「蹴上のつつじ」一般公開のついでに訪れたことがあり、屋外のそすいカフェでランチを食べました。1階と地下1階に展示室が3つありますが、プロコフィエフに関する展示はありませんでした。館内には「そすいさんぽ」と題した疏水が流れるルートに沿った地図が配布されていて、「大津-山科∸鴨川コース」「鴨川運河コース」「疏水分線コース」の3つがあります。疏水分線は、京都コンサートホールの近くの府立大学前のバス停付近を暗渠で流れているので、私にとってはそこそこ馴染みがあります。なお、小味渕と沖澤は開始前に学芸員の案内で館内展示を見学されていました。
 
会場は2階のAVホールでした。受付で現金で資料代の500円を支払いました。ホール内はすごく狭い。500円分の資料がどんなものが期待していましたが、イスに置かれていたのは、「京都市交響楽団「プロコフィエフの陣」プレイベント」と印刷された小味渕が作成したA3両面刷りのレジュメと、京都市交響楽団70周年ステッカー(非売品?)と、あとは京都市交響楽団と京都市下水道局のパンフレットなどでした。
 
はじめに、京都市交響楽団営業・マーケティング係長の田渕洋二郎が趣旨説明。「70周年記念として、プロコフィエフ交響曲全曲演奏に取り組むが、プロコフィエフは1918年6月14日の日記に京都に滞在して琵琶湖疏水を訪れた一文が日記に残っている。京都市上下水道局との共催で開催する」と説明しました。
 
今回のイベントは3部構成でした。まず、琵琶湖疏水記念館学芸員の吉田武弘が「プロコフィエフも愛した国宝・琵琶湖疏水の歴史と魅力」と題する講演。パワーポイントを映写して進行しました。琵琶湖疏水記念館が所蔵する京都市交響楽団に関係がある資料を紹介しました。初代常任指揮者カール・チェリウスと初代楽団長高山義三(京都市長)が打ち合わせしている写真や、伊吹文明の母が高山市長に宛てた京響のコンサートの感想を記した書簡などを紹介しました。よく探し出したと思いましたが、琵琶湖疏水記念館には高山義三市長の資料を多く所蔵しているとのこと。琵琶湖疏水は3ルートで約30キロあり、疏水の力で京都に活力を取り戻そうとしたと説明。2020年に文化庁「日本遺産」に認定されて、2025年に南禅寺水路閣などが国宝に指定されたとのことですが、これは知りませんでした。第1展示室の展示物には重要文化財もあるとのこと。15分ほどで終了。
 
続いて、音楽評論家の小味渕彦之が登場。豊中市立文化芸術センター総合館長を務め、2025年度から同志社女子大学学芸学部音楽学科准教授に着任して音楽ビジネス領域を担当しています。「大阪4オーケストラ活性化協議会シーズンプログラム共同記者発表会」の司会をほぼ毎年担当しています。落ち着いた話し方で聞きやすい。
はじめに、「京都市交響楽団を聴いている人?」を聞くと、ほぼ全員から手が挙がりました。「応募は150人あった」と明かされたので、競争率は3倍でしたが、よく当選したものです。続いて、「プロコフィエフの交響曲全曲を演奏会で聴いたことがある人?」を聞きましたが、手は挙がりませんでした。小味渕は「挙がらないですよね。誰もやらない。過去に日本フィルがラザレフの指揮でやったことがあるが、演奏されるのはほとんどが1番、5番、7番」と話しました。「プロコフィエフと言えば」ということで、プロコフィエフの作品をいくつか実際にパソコンから音源を流しました。「ピーターと狼」「ピアノソナタ第7番」「フルートとピアノのためのソナタ」「ピアノ協奏曲第3番」の一部を流して、「どこかで聴いたことがある」とコメント。また、「プロコフィエフは映像が残っている」とのことで、YouTubeの動画を流しました。白黒映像でピアノを弾いた後にインタビューに答えている映像ですが、プロコフィエフは意外に声が高い。
プロコフィエフの生涯については、「現在のウクライナ(ドネツク共和国)で生まれた」と紹介しましたが、Googleマップで見ると明らかに畑が広がる農村です。プロコフィエフが日本を訪れた際に、日記に「珍しい水路(トンネルを抜ける運河)」と書かれてありますが、これが琵琶湖疏水のことで、「これこそ本物の日本だ」と書き記していると紹介。1918年に2ヶ月日本に滞在しましたが、ソヴィエトから南米に行く途中で日本に立ち寄ったが、船が出てしまっていたため、北米行きの船を待つことになったとのこと。長く日本に滞在する予定ではなかったのですね。6月12日から18日まで京都に滞在して、6月14日に琵琶湖疏水を訪れ、その後、奈良に行って奈良ホテルに泊まったとのこと。日本滞在中に演奏会を開いて、8月2日にサンフランシスコに向けて出港したと説明しました。なお、小味渕は、先月にびわ湖疏水船に乗ったとのことで、その際に撮影した映像も紹介。トンネルの中は冷蔵庫のように涼しかったようです。
続いて、プロコフィエフが自伝(1939~1941)の中で、自身の作風を分類していると紹介。その分類とは、①古典的な線、②現代的な傾向、③トッカータまたはモーター、④抒情的な線、⑤スケルツォ的の5つで、バレエ音楽「ロメオとジュリエット」を聴きながら、小味渕が分類していきました。「現代的な傾向」はロメオとジュリエット冒頭の前奏曲、「トッカータまたはモーター」は運動性のある作品で、ロメオとジュリエットでは「戦い」、「抒情的な線」は13曲目の「ロメオとジュリエット」で、「こういうひんやりした響きがプロコフィエフには多い」と解説。「スケルツォ的」はちょっとおどけた曲で「少女ジュリエット」。小味渕はこの5つに「アイロニー(皮肉)をつけ加えたい。プロコフィエフならではの醍醐味」と解説しました。
 
いよいよ後方で聞いていた沖澤が登場して、小味渕とトーク。沖澤は「2015年にベルリンでバレエやオペラを聴く機会があり、プロコフィエフを聴いて衝撃を受けた。ピアノ協奏曲第2番を演奏した。プロコフィエフの自作自演のテンポを洗い出したが、完全に同じか少し速いかぐらいだった」とプロコフィエフの研究を話しました。また、ロジェストヴェンスキーは20代に全7曲を暗譜したとのことですが、沖澤が指揮したのは交響曲第1番しかないとのこと。
小味渕がプロコフィエフの交響曲の音源を流して、沖澤がコメントするスタイルで進行。沖澤は「全曲演奏でネックになるのは第2番」と話しました。交響曲第2番は「第1楽章が破壊的破滅的な音楽で11~12分続く。耳をつんざく大音響でこれがオーケストラにとって難しい」「パリに滞在中に作曲されたので、オネゲル的な要素もある。先ほどの分類では現代的な傾向」と話しました。「第2楽章は変奏曲で、オーボエがきれいでほっとするはじまり方。分類では抒情的な線」と解説。 
交響曲第3番は、「炎の天使というオペラが元になっているが、天使というよりも悪魔的なオペラで奇怪なところが多い。第1楽章は弦楽器がディヴィジョンになっていて、かきむしってるような弦のグリッサンドがある。第2楽章はものすごく美しくて民謡的」と話しました。小味渕が「触れ幅の大きさが魅力」と語ると、沖澤は「音色の透明感と全音階的な旋律が魅力」とコメント。
交響曲第4番は、「後に改稿されているが、今回の全曲演奏会では順番に演奏するので、オリジナルの4番を取り上げる。20分の作品だが、後で書き換えられて全然違う。別の作品番号が与えられている。重々しい暗い」とコメント。オリジナルと改稿でどう違うのか聴きくらべ。小味渕が「変化球を交えながらまっすぐ行く」とメロディーについてコメントすると、沖澤は「改定後はメロディーからして違う。田舎を賛美しているよう。立派になったが流麗さは失われた」とコメントしました。
小味渕が作成したレジュメに、プロコフィエフが交響曲、協奏曲、ピアノソナタを作曲した年代が一覧できる年表があり、違った視点でプロコフィエフの作風の変化が見られて、資料的な価値が高い。小味渕は「第4番と第5番の間が大きく開く」と解説。交響曲第5番の第1楽章について、小味渕は「構えのよう」。沖澤も「いろんな要素を予感させる」。第4楽章の最後は沖澤「モーターとスケルツォ。名目はソ連の勝利を祝ってるけど実際は違う」。小味渕も「ちょっと狂気も感じる」とコメント。なお、沖澤によると「京響も広上がヨーロッパ公演で演奏したことがある」と話しましたが、京響創立60周年を記念した2015年のヨーロッパ公演で演奏されています。
交響曲第6番については、小味渕は「謎」と話しましたが、沖澤は「全曲の中で1番好き。痛快で強烈な皮肉がある。サーカズム(皮肉よりもいけず)を感じる」とコメント。第1楽章は沖澤が「心に来る」「なにか言いたげ」「戦争に残された者の悲哀」とコメント。第3楽章は「急に古典になる」「軽やか」「ショスタコーヴィチの交響曲第9番につながる」「終わりが不思議で痛烈な悲しい音楽になる。同じ楽章と思えない」とコメント。小味渕が「変わり身の早さ」とコメントすると、沖澤は「モーツァルトなど天才に多い」とフォロー。沖澤は「第4楽章が急にぶったぎられて終わる」「「やーめた」みたいな。無理やりヒロイックなEs-durで終わる」「音楽の分かりやすさが正義ではない。抽象的でもよい」と話しました。なお、沖澤は「聴きながら話せない」とのことで、しばらく聴き入っていました。
交響曲第7番について、沖澤は「最初は演歌」。小味渕は「分かりやすいメロディーでありながら、何かはぐらかされている」とコメント。沖澤は「第3楽章は誰が聴いても美しい。映画音楽のよう」とコメント。エンディングは2種類ありますが、沖澤は「もともと書いた終わりを採用する」と話して、両方の聴きくらべ。沖澤は「初演者のサモスードに言われて書いたほうは、とってつけたよう。頼まれたから書いたのが分かる」。前の版は「こんな感じで終わるのがプロコフィエフらしい」とコメント。初めて聴きましたが、最後の木琴(シロフォン)のメロディーがいいですね。ショスタコーヴィチの交響曲第15番に似ていて、この日に聴いた音楽で最も心を惹かれました。
最後に小味渕が「プロコフィエフの醍醐味は?」と聴くと、沖澤は「音響効果。生で聴くと多層感がある。立体的な不協和音はそこまで不快ではない」「あとは全曲を制覇する喜び」と話しました。「交響曲第5番と第7番はロシアで演奏する予定があった。世界的な情勢もあるが。あえてロシアの作品を演奏する名曲を名曲として演奏したい。私が好きなプロコフィエフをみんなに知ってもらいたい」と力強くアピールして15:35に終了。
 
沖澤が聴きどころや自身の演奏感を聴ける興味深いイベントでした。定期演奏会のプレトークの延長版とも言えますが、実際に音源が聴きながらで分かりやすい。こういう機会がもっと増えるといいですね。産経新聞のインタビューでは「ブラックジョークに近いプロコフィエフの音楽性は、きっと関西との相性がいい。面白い演奏会になる」と語っていましたが、どんな演奏になるでしょうか。
 
せっかくの機会なので、周辺の琵琶湖疏水関連施設を見学しました。南禅寺水路閣は小学校の校外学習以来ひさびさに行きましたが、多くの外国人観光客が訪れていました。蹴上インクラインもカメラスポットになっているようですね。ねじりまんぽは初めて行きましたが、本当にねじれていました。
 

ロームシアター京都と琵琶湖疏水 岡崎さくら回廊十石舟めぐり 平安神宮大鳥居と琵琶湖疏水 広道橋から鴨東運河を望む 仁王門通りから琵琶湖疏水記念館を望む 琵琶湖疏水記念館 南禅寺中門 南禅寺水路閣 南禅寺水路閣 南禅寺水路閣の上部 田邉朔郎像 蹴上インクライン ねじりまんぽ

(2026.4.28記)

 

京(みやこ)の音楽会Vol.4「「マンガ」の音楽会」