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ニールセン作曲/仮面舞踏会序曲 デンマーク国立交響楽団(1970年12月12日 デンマーク放送コンサートホール) ベルワルド作曲/交響曲第3番「サンギュリエール」(風変わりな交響曲) メンデルスゾーン作曲/交響曲第4番「イタリア」 チャイコフスキー作曲/「くるみ割り人形」組曲より「行進曲」、「ロシアの踊り(トレパーク)」、「中国の踊り」、「あし笛の踊り」 ローゼンべリ作曲/マリオネッター序曲 ティーセン作曲/ハムレット組曲 モーツァルト作曲/交響曲第25番 プロコフィエフ作曲/交響曲第1番「古典交響曲」 J.シュトラウス2世作曲/こうもり序曲、アンネン・ポルカ、トリッチ・トラッチ・ポルカ J.シュトラウス1世作曲/ラデツキー行進曲
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EMIクラシックスから発売されてきた「20世紀の偉大な指揮者たち(GREAT CONDUCTORS OF THE 20TH CENTURY)」も最後のリリースとなりました。このシリーズは、20世紀に活躍した指揮者の演奏を2枚組で発売しています。従来から評価が高い演奏だけではなく、初CD化になる音源を収録していることが注目されます。今回のチェリビダッケも、若い頃のライヴ録音が集められています。晩年に見られた遅いテンポによる演奏ではなく、標準的なテンポで進められています。また、オーケストラ全体がソルフェージュし、あたかもひとつの楽器で演奏しているような一体感を感じさせる演奏が魅力です。指揮者の意志を感じ取れますし、いきいきとした生命感を感じます。
Disc1には、4作品が収録されています。
ニールセン作曲/仮面舞踏会序曲(デンマーク国立交響楽団:1970年ステレオ録音)は、シンプルな構成ながら起伏に富んだ作品。ニールセンらしさはまだ感じられませんが、5分間でも内容が詰まった作品です。演奏は、チェリビダッケのうなり声が聞こえる熱演で、特に後半の金管楽器の輝かしい音色はすばらしい。
ベルワルド作曲/交響曲第3番「サンギュリエール」(風変わりな交響曲)(スウェーデン放送交響楽団:1967年ステレオ録音)は、3楽章からなる作品。メロディーは親しみやすいですが、音楽に流れがなく、脈絡が唐突で、素材を断片的に組み合わせたような作品です。このあたりが「風変わり」なのでしょうか?
メンデルスゾーン作曲/交響曲第4番「イタリア」(ベルリン・フィルハーモニー交響楽団:1953年モノラル録音)は、以前紹介したアルヒペルから出ているディスク(ARPCD 0140)と同じ音源。録音はアルヒペル盤よりもスマートな仕上がりで、演奏も上手に聴こえます。アンサンブル能力の高さはさすがベルリンフィル。第4楽章は快速テンポでスリリング。ただ第1楽章は、重くて躍動感に欠けるので、もう少し速くてもいいと思います。
チャイコフスキー作曲/「くるみ割り人形」組曲(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団:1948年モノラル録音)は、4曲のみ収録されています。この演奏は、ライヴ録音ではなく実に珍しいスタジオ録音です。ただし、オーケストラの力量が不足でやや不安定な演奏です。この2枚組に収録しなくてもよかったのではないかと思います。
Disc2には、意外な作品の音源が含まれています。こんな録音が残されていたのかと驚きました。
スウェーデンの作曲家、ローゼンべリ作曲/マリオネッター序曲(スウェーデン放送交響楽団:1962年モノラル録音)は、少し変わった構成。どう変わってるのかと聞かれても説明できませんが。
ティーセン作曲/ハムレット組曲(ベルリン放送交響楽団:1957年モノラル録音)は、悲劇色の強い作品。ティーセンはチェリビダッケが作曲を師事した人物です。
モーツァルト作曲/交響曲第25番(ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団:1948年モノラル録音)は、スタジオ録音。大編成のオーケストラによる演奏で、重厚で彫りの深い演奏が聴けます。手抜きはまったくなく丁寧に演奏しています。Disc1の「くるみ割り人形」組曲と同じ日の収録ですが、まるで別のオーケストラのような完成度です。
プロコフィエフ作曲/交響曲第1番「古典交響曲」(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団:1948年モノラル録音)もスタジオ録音。ベルリンフィルらしからぬ低水準の演奏。音程や縦線など乱れが目立ちます。以前紹介したアリオーソの音源(ARI 006 1946年モノラル録音)とは別音源のようです。アリオーソのほうがテンポが速くスリルがあります。ベルリンフィルも熱演を聞かせています。チェリビダッケの「古典交響曲」を聴くなら、アリオーソ盤をすすめます。
J.シュトラウス2世作曲/こうもり序曲(デンマーク国立交響楽団:1970年ステレオ録音)は、チェリビダッケらしさが際立ちます。濃厚で歌心にあふれくっきりとした輪郭を感じます。ところどころでテンポを揺らしているのが意外です。チェリビダッケの演奏解釈を知るうえで要チェックの音源です。
J.シュトラウス2世作曲/アンネン・ポルカ(同上)は、端正な演奏。美しい音色はウィーンフィルの演奏かと聴きまがうほどです。
J.シュトラウス2世作曲/トリッチ・トラッチ・ポルカ(同上)は、スピード感がすばらしい。
J.シュトラウス1世作曲/ラデツキー行進曲(同上)は、手拍子なしの演奏。勇ましい行進曲に仕上げています。
これらの録音はチェリビダッケが生前に発売を認めた録音ではありません。録音嫌いだったチェリビダッケは、このような録音を聴けばなんと言うでしょうか? おそらく録音の価値を完全に否定するでしょうが、亡くなった今となっては本当に偉大な遺産と言えるでしょう。生演奏がどれだけすごかったか容易に想像できる録音です。実際の演奏会で聴かれた音響やバランスではないにしても、これらの録音の存在は極めて貴重と言えるでしょう。また、今年秋には、EMIクラシックスから「チェリビダッケ・エディション」の第4弾がリリースされることになりました。こちらの内容にも大いに期待しましょう。
(2004.8.15記)